第32回世界コンピュータ将棋選手権に出場してきました

GWの2022年5月3から5日にかけて、「第32回世界コンピュータ選手権」が開催されました。
将棋ソフト関連大会の中では一番歴史が古い大会で、1990年から毎年開催されています。
今回、自分が開発する「S.Lightweight-EF」も本大会に参加してきましたので、忘れないうちにその振り返りを記載します。

■結果
まずは最初に結果から。
1次予選 :33チーム中7位(予選通過)
2次予選 :28チーム中6位(予選通過)
決勝リーグ:6位


■準備したこと
昨年冬に開催された第2回電竜戦では、B級9位(全46チーム中19位)という結果でした。
この結果を受け、電竜戦に出した「Lightweight-EF」の改良を行い、その改良版を「S.Lightweight-EF」としました。
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※以下、個人的に印象に残った箇所に絞って記載します。
■1次予選
世界コンピュータ将棋選手権については初出場のため、1次予選からの出場でした。

・Argo 戦
初戦のArgo戦では、先手番だったものの勝ちきれずに引き分け。
残り数手で詰みであることは見えていましたが、Argoに粘られたことで320手を迎えてしまいました。
ここで引き分けたことで勝ち点が0.5となり、結果的に1次予選通過の雲行きが怪しくなりました。

・prelude 戦
谷合先生が開発されたソフトとの一戦。
水匠以外には全勝されていたため、相当に強いことは認識していましたがやはり強かったです。同じDL系として勝ちたかった...。
ただ、対局数が限られている中で注目のソフトと戦えたこと自体はとても嬉しかったです。

・十六式いろは煌 戦
7回戦が終わった時点でボーダーギリギリの10位でした。
確実に2次予選に進むためにはこの対局で勝つ必要があったため、特に緊張して見ていた対局でした。
30手目までは互角の局面が続いていたものの、そこから少しずつ有利に転じていきなんとか最終戦を勝つことができました。
この時点で5勝2敗1分となったため予選突破が確定しました。


■2次予選
・やねうら王 戦
s-book_blackをベースにした定跡が刺さり、80手目付近で+600弱程度有利な状況となりました。
やねうら王側の棋力を考えるとそれでも320手まで粘られるor頓死等でひっくり返される可能性がありましたが、なんとか勝ちきるところまで持っていくことができました。
※当日の対局室にて一部の方にはお話しした記憶がありますが、S.Lightweight-EFは形勢有利(体感的には+400以上)になってから詰みまで持っていくところにやや不安があります。

・二番絞り 戦
予想外の4連勝で次に迎えた相手は二番絞りでした。
同じdlshogiベースではありますが、開発コンセプトは対極的で
こちらは軽量志向であるのに対して、二番絞りは「巨大な深層学習モデルで最高精度の局面評価を誇る」とされています。(アピール文から引用)
後手番での対局となりましたが、一度も後手側に評価値は触れることなくじわじわと持っていかれた形で敗局しました。
こちら側では50手目を過ぎたあたりで、すでに評価値が-400程度となっていました。

・水匠 戦
一度は入玉局面までは持っていったものの、130手目を過ぎたあたりから評価値が一気に水匠有利に転じました。
その後、玉を追い立てられあと少しで投了という場面で異常終了してしまい負けとなりました。
あの局面からはどちらにしろ負けていたものの、この異常終了の原因が分からず、残り2局を残していたためかなり焦りました。

・Novice 戦
2次予選最終局。
ともに5勝という成績であったため、勝った方が決勝リーグに進む状況でした。
Noviceチームの定跡が強いということは既に聞こえてきており、また130手目を超えた時点で+400ほど先手良しとなっていました。
ただ、143手目の3六金打を指した局面にて詰みが見つかったことで、なんとか勝利することができ2次予選突破が決まりました。
※S.Lightweight-EF側でも検討すると、10秒探索した時点で最善手として挙がってくるものの直後に詰みを見つけて避けるようです。


■決勝リーグ
・マメット・ブンブク 戦
前日の2次予選にて既に一度後手番にて負けていたtanukiさんが初戦の相手でした。
記憶している限り、これまで一度も勝てたことがない相手でしたが、70手目前くらいで後手有利に傾き始めました。
そのまま相入玉となり優勢だったものの、勝ち切れずに320手を迎えて引き分けとなりました。

・dlshogi with HEROZ 戦
今回優勝されたdlshogi with HEROZとの対局は、S.Lightweght-EF側としては100手を超えるまでほぼ互角の評価値を示していました。
そこから110手目付近で少しずつ後手良し側に振れていき、181手での投了となりました。
※kanouさんの棋譜中継サイトでは水匠が一瞬150手目前後で先手+500くらいを示しましたが、S.Lightweight-EFから見ると110手目からはずっと後手有利と評価しています。


■終わりに
自分がコンピュータ将棋に興味を持ったのは、前回大会の優勝者であるelmo(開発者:瀧澤さん)がきっかけでした。
それまでは「過去に電王戦という大会があった」くらいの認識しかありませんでしたが、
会社での各部署の紹介にて瀧澤さんやelmoが紹介されていたのを見て、「自分でもやってみたい」とコンピュータ将棋に興味を持ちました。
そこから色々な開発者のブログやソースコード、解説本から勉強させていただいたり、時にはSNS等でアドバイスをいただいたりして
今回このような結果を残すことができました。

マッチングなど運に恵まれた部分も大きかったとは思いますが、良い結果が残せたことは嬉しい限りです。
また今大会にて色々な開発者の方々と実際にお話しさせていただいたり、開発についてアドバイス等をいただけたりしたこと、とても感謝しております。

プロ棋士の先生方や、司会進行・聞き手等を務めて下さった皆様、ご多忙のなかご参加いただきありがとうございました。またCSAの皆様におかれましても、リモート参加を含めたハイブリット開催という難しいオペレーションを3日間に渡って行っていただきありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。